真嶋潤子とCEFR

 ヨーロッパの統合という政治的うねりの一環に言語政策がありますが、2001年にCommon European Framework of Reference for Languagesヨーロッパ言語共通参照枠 (以下略してCEFR) が過去数十年の研究蓄積をもとに打ち出され、今年2014年まで13年余りの年月が経ちました。その間、CEFRはヨーロッパ域内だけでなく、むしろ域外の外国語教育で高く評価され、利用や実践が進んで来ていると言えます。
 その間、日本語教育に関係することだけを見ても、AJEヨーロッパ日本語教師会が委託研究を完成してヨーロッパの日本語教育におけるCEF調査研究結果として出版され(2003)、JF国際交流基金からCEFRの影響を色濃く受けた「JFスタンダード」が作成され(2010)、それに準拠したユニークな日本語教材(『まるごと』)が出版されています。
 CEFRが発表されてから数年間は、それを「上から」実施されてしまうことへの反発の声をヨーロッパの各地で耳にすることもありましたが、最近では言語教育関係者は、学習者を含め、かなりそれに慣れてきて当たり前になってきたように感じられます。
 私は当初よりCEFRという新しい枠組みに対して、「上からの押しつけだ」とか「今あるものを変えるのは嫌だ!?めんどうだ」といった悲観的、消極的な捉え方ではなく、教育現場と実践を改善・発展させる新しい道具が提供された、と積極的建設的にとらえる立場に立ちたいと思って、旧大阪外国語大学外国語学部(2007年10月以降は大阪大学外国語学部)の25専攻語の「到達度評価制度」にCEFRを参照する事にも非力ながら進め協力してきましたが、今や新入生への「学生便覧」にも25専攻語の4年間の到達度目標が掲載され、それを教員も学生も意識する事がかなり常態化してきたことを嬉しく思っています。

 最初は端的にCEFRを非ヨーロッパ言語に適用できるのかという疑念が持たれていましたが、文化による言語や言語行動の違いについては、CEFR にも述べられているように、その言語の専門家が取り組み議論していくことでしか、進展はあり得ません。CEFRを開発した人々は、あくまでも ヨーロッパにおける言語教育の参照枠をヨーロッパ言語を素材にした研究に基づいて行なったわけです。それでもこの参照枠の精神の普遍性を、非ヨーロッパ言語でも応用できるとするならば、Common European Framework でなく、Common Asian Framework とか、いっそのこと世界中で使えるCommon Framework of Reference for Languages言語共通参照枠とすることが、将来的には不可能ではないのかもしれないという思いは、まだ持ち続けています。


 CEFRの導入に対する根本的な批判として、シュベートフェーガー(2003)のように、CEFRは言語教育に、効率重視、経済重視の姿勢を持ち込む「マクドナルド化」になるのではないかという懸念を指摘する声がありました。これは、マクロの視点で言語政策的に CEFRを見た時に、確かにグローバリゼーションと言語政策・言語教育という問題とも絡んでいると思うので、非常に重要な問題でありますが、今の時点で全体として見ると、画一化あるいは統一された部分がある一方で、「ポートフォリオ」(ELP)を現場で学習者一人一人の記録として用いることで、学習の個別化も尊重されているように見受けられます。また自律的学習者(autonomous learner)を育成しようとすることも、個別化を促進してきたと思われます。
 欧州評議会(CoE)の言語政策部門は、2006年に移民への言語教育をテーマにしてCEFRを活用する提案をした後、学校教育における言語というテーマを打ち出して、複言語主義の実現を年少者から取り組む方向で動いています。これは翻って、日本においても外国にルーツを持つ児童生徒への言語教育が、公教育の現場では喫緊の課題となっている現在、参考にすべきこともあると考えています。
 CEFRの「マクドナルド化」への警鐘と共に、今後の課題としてフォローして足並みを揃え、考え続けたいと思っています。
 
テュービンゲン大学での講演会:CEFR-CVとその後 →
 
CEFR-CVと自閉症スペクトラム障害とは実は無関係ではないかも →
 
 


2010年11月6日 講演 「日本語教育における評価とアセスメント」(於香港大学) 
 
2010年11月27日 日本語教育国際シンポジウム 「JLC日本語スタンダーズの今後の展望」にて報告「言語教育における到達度評価制度について−CEFRを利用した大阪大学の試み−」(於東京外国語大学) (詳細と申し込みはポスター参照) 
 
口頭報告「到達度評価(CEFRとNS)-大阪外大の試み-」(中国語教育学会・高等学校中国語教育研究会 合同全国大会にて)
 
 言語教育における到達度評価制度に向けて —CEFRを利用した大阪外国語大学の試み— 」(間谷論集 創刊号)
 
大阪外大のアメリカ協定校における外国語教育視察報告 (アメリカの National standards についての話)
 
 国際シンポジウムについて (パネルディスカッション報告へのリンクあり) 
           
2005年3月から9月までドイツを中心にヨーロッパで調査を行ないました。その経過報告です。 
 
 2006年と2007年にアメリカで調査を行ないました。報告を掲載する予定です。
 
 2007年夏にストラスブールとグラーツで調査を行ないました。その報告です。
 
「大学フォーラム 2009: 東南アジアにおける日本語・日本文化教育の21世紀的展望 − 東南アジア諸国と日本との新たな教育研究ネットワークの構築を目指して」
 
 2009年3月から2010年3月までの活動記録です
金沢大学 シンポジウムでの講演「大学の外国語教育におけるCEFRを参照した到達度評価制度の実践 −大阪大学外国語学部の事例を中心に−