2012−2016年まで5年間、科研費補助金をいただいて行ってきた調査研究の成果の一部を、ポルトガルの首都リスボンで行われた学会で発表してきました。この調査は、大阪府内の中国ルーツの児童が在籍する公立小学校での、日本語と母語(中国語)の二言語能力(話す力と読む力)の伸びを縦断的に調べてきたものです。
今回の発表では、話す力に焦点を当て、比較のために日本語母語児童のデータと、南米スペイン語母語児童のデータも使いながら、ディスコース(談話)構成力の発達面に着目する重要性を述べました。
「日本で多言語環境に育つ年少者の話す力の二言語調査」
A Study of the Development of the Speaking Ability in Two Languages of the Culturally Linguistically Diverse Children in Japan
リスボン新大学(ポルトガル)
櫻井千穂氏との共同発表
報告概要
グローバル化に伴って、海外在留邦人の数は 130 万人を超え(外務省, 2016)、日本国内の在留外 国人数も約 223 万人(法務省, 2016)と、いずれも過去最多を記録した。このような中、日本語と もう一つの言語の中で育つ、文化言語の多様な子ども(Culturally Linguistically Diverse Children, 以下 CLD 児)も、日本国内外を問わず、増加傾向にある。この CLD 児の言語教育を考えるとき、母語 が確立した上で第二言語や外国語を習得する成人の場合と違って、彼らが持つ複数の言語の習得 とそれに伴う認知の発達を促し、育成しようとする視点が欠かせない。以上の問題意識から、発 表者ら研究チームは、2005 年からの 12 年間に渡り、CLD 児の言語発達全般に焦点を当て、質的・ 量的に様々な調査を行ってきた。 本発表では、この一連の調査のうち、特に子どもの言語発達の基盤となる「話す力」に焦点を 当て、年齢に応じた発達の一端及び二言語の関係を明らかにすることを目的とする。 対象は、日本国内在住の小学1—6年生の中国及び南米スペイン語圏ルーツの CLD 児 131 名、 対照群として日本語母語児童 58 名である。文部科学省が開発した「JSL 対話型アセスメント DLA」の<話す>から、認知要求度の異なる3つのタスク「日課」「お話」「環境問題」を実施 し、テスターとの一対一のやり取りを録音・文字化により収集、量的・質的に分析した。 結果として、日常会話レベルにおける談話の時系列構造、及び発話量には年齢による差は見ら れなかった。ただし、低年齢児の中には、一人で談話を生成できず、単文羅列に止まる児童もお り、CLD 児の場合、この傾向は二言語に共通して現れた。年齢及び二言語との関係が顕著だった のは、因果関係の把握、及び概念把握であった。これについては、グループ全体と比較して、二 言語ともに大きく遅れの見られる児童もおり、認知の発達という観点から CLD 児の二言語の力を 観察する重要性が示された。本発表では、実際の発話データを提示しながら、その実態について 報告したい。
発表スライド
大会全体の概要とプログラムはこちらから