真嶋潤子が考えていること

 日本語能力試験の受験資格の変更について意見があります!

 
 世界最大の日本語能力を評価する大規模試験である『日本語能力試験(JLPT)』の国内受験申請のための要件が、2026年2月2日に突然変更されたと、公式HPで発表されました。『日本語能力試験』は日本語を母語としない人の日本語能力を証明するために最も広く用いられている試験です。その日本国内での実施を担当する団体である『日本国際教育支援協会』(以下「協会」)が、受験の申し込み要件に「在留カード」のID番号の記入を新たに求めるようになりました。
 主催者挨拶文には、独立行政法人国際交流基金と公益財団法人日本国際教育支援協会の連名で、
「日本語能力試験は、いまでは世界中で活用されています。私どもは、これからも、あらゆる学習環境にある、様々な日本語学習者が、公平に、そしてより多くの受験機会を持つことができるよう、日本語能力試験のさらなる普及、充実のためにより一層努力してまいります。」
という文章で結ばれた挨拶文が掲載されています。
(https://www.jlpt.jp/about/index.html)
 
それなのに
「2026年日本語能力試験の実施について、当ホームページ内「試験実施案内」に掲載いたしましたので、ご確認をお願いします。
2026年の日本語能力試験は、原則として、日本語を母語とせず、日本の在留管理制度における中長期在留者及び特別永住者が対象となります。申し込みの際に、在留カード等番号と有効期限を入力する必要があります。そのため、観光等の短期滞在や3カ月以下の在留期間が限定された人など、在留カードを所持しない人は受験できません。渡日の予定があっても、申し込み時点で中長期在留者及び特別永住者でない場合(在留カードが交付されていない場合)は受験できません。
受験者及び関係各位の皆様におかれましては、ご理解のほど、よろしくお願いいたします。」
との案内が出ています。(https://info.jees-jlpt.jp/other/2026jisshi.html)
 
 そもそもこの試験は純粋に言語能力を評価するための試験であり、本来は誰でも受験できてしかるべきものです。協会の公式ページでも昨年までは「母語が日本語でない人なら、だれでも受験できます。日本国籍を持っているかどうかは関係ありません。」と明記されていました。言語能力試験と在留管理制度とは本来何の関係もありません。そのため今年1月まではそのような要件はなかったのです。
 ところが協会は何の理由の説明もなしに一方的に受験資格を狭めるような措置を取りました。受験希望者に多大な影響が出る措置を取るのであれば、相応の理由説明が必要です。協会はその説明責任を果たしていません。
 既に外国ルーツの子どもたちの支援を行っている団体の方々から疑問が寄せられ、反響の声も上がっています。さすがに疑問や懸念の声を無視できなかったのか、「仮放免が許可された者については、確実に居住地及び連絡先が確認できる場合に限り受験を認めます。」といった文言が示されました。しかし、こうした個別の対処で問題が解決されるとは到底思えません。
 試験の運営に関しては、以前よりも「透明性」に欠けると言わざるを得ません。様々な理由で「在留カード」のない人・持てない人は受験の申請すらできないということであり、納得できない、差別的ではないかという声も聞こえてきます。実際に国内受験申請の手続きのページを開くと、まず「在留カード」の情報を記載することになっており、「在留カード」がない人はその先に進めないようになっています。
例えば、
・海外の国際家庭(どちらかの親が日本人)の場合、子どもがもう一方の親の国籍しか持たないとき、日本人の親の帰省に伴って日本に短期滞在し、その際に試験を受けようとしても、申請時点では在留カードがないため申請できません。
・JLPTの受験に合わせて日本に観光ビザで来日し受験しようとする人は、今後は受験不可能になります。
・自国に試験会場がない場合、他国に受験のためにわざわざ行く必要がありますが、どこで受けても良いとされている中で、日本で受けることだけができなくなります。
こうした人々が日本語能力試験から排除されてしまうのです。なぜなのか、ルールを明示し、丁寧に説明すべきではないでしょうか。
 こうした問題は事前に容易に想定できたはずなのに、協会は個別には電話での問い合わせしか受け付けていません。受験者の多くを占めるのは一番易しいレベルであるN5、あるいはその一つ上のN4の試験を受ける人たちです。その人たちが自分で電話で問い合わせをすることができるでしょうか。不可能でなければ極めて難しいと思われます。誰か日本語に堪能な人の助けを必要とするのは間違いありません。敷居を高くして入口のところで門前払いをするつもりではないかと勘繰られても仕方がない状況です。海外からの問い合わせは時差もあり、さらに大変でしょう。
 もちろん必要であれば電話するしかありませんが、基本的に根本には「日本語教育の普及」のために希望する人にはできるだけ受験機会を増やし、便宜を図るという趣旨があるはずです。今回の唐突な「在留カード」要件の変更は、その趣旨から外れているように思えます。
 不利益を被る人が個別に救済されたからといって、問題がそれで終わるわけではありません。強調しておきたいのは、根本的な原則の問題を忘れてはならないという点です。国家の出先機関でもない協会が、なぜ在留管理制度の枠内に受験資格を押し込めようとするのでしょうか。関係者に大きな影響が予想されることを何の説明もなしに原則を一方的に通知しておいて、個別の救済は個別に問い合わせろという態度は、まるで「由らしむべし、知らしむべからず」「知りたければ訴え出ろ。お上にも慈悲はある」といった江戸時代の発想を思い起こさせます。国家機関ですらそんなことは許されません。
 日本語学習者が増えることは日本にとって喜ばしいことではないのでしょうか。自分の日本語能力を測りたい、日本語能力の証明を得て就職に活かしたいと考えることは、いけないことでしょうか。国際結婚の子どもが日本語を継承し、それを通じて日本文化を受け継ぐことは悪いことでしょうか。協会の態度はどう考えても国益に真っ向から反していると言わざるを得ません。
 日本語教育の国内外での普及を旨とし、日本語学習者のJLPT受験希望者であれば誰でも受験できるようにすべきであると考えます。「排除されている」と感じる人がいれば、それを正して「誰も排除されない」ようにしてほしいのです。「差別されている」「排除されている」と感じられることが誤解であるなら、誤解されないように説明をしてほしいと思います。ルールの「透明性」がなければ「公正」な試験もおぼつかないのではないでしょうか。
 最初に引用した主催者挨拶文にあったように、
「あらゆる学習環境にある、様々な日本語学習者が、公平に、そしてより多くの受験機会を持つことができるよう、日本語能力試験のさらなる普及、充実のためにより一層努力してまいります。」
ということをぜひ実行していただきたいと考えます。国際交流基金試験センターでは、質の高い試験の作成のために大変な努力がなされています。せっかく良い試験を作っていただいても、試験実施の際に受験希望者が透明性の高い公明正大なルールに従って信頼できる試験結果を得られなければ意味がないですし、日本語教育のさらなる普及・発展につながらないのではないかと危惧しています。
 最後に、一般社団法人やさしい日本語普及連絡会代表理事の吉開章氏がこの問題について的確なコメントを寄せています。
(https://note.com/akirayoshikai/n/n2c334d5daa1e)
 誤解のないように記しておきますと、日本語能力試験の問題を作成しているのは国際交流基金の「国際交流基金試験センター」であり、試験の実施を担当しているのが日本国際教育支援協会です。今回の協会の通知は問題作成者である国際交流基金とは無関係に、協会単独で決めたものです。
 なお、筆者は国際交流基金に籍を置いていますが、上記の見解はいずれの団体とも関係なく、完全に一個人としてのものです。