欧州評議会 移民の言語統合に関するシンポジウム
URL: http://www.coe.int/en/web/lang-migrants
行ってきました!報告します。
2015年にはこれまでにない規模で、ヨーロッパ各地にシリアやアフリカ北部から、難民が文字通り「押し寄せて」います。地理的に遠いからといって、日本には関係ないといつまでも言っていられるでしょうか。難民受け入れで大わらわのヨーロッパで、欧州評議会の言語政策ユニットが主催した国際シンポジウムに行ってきました。どんなことが議論になっているのか、知りたかったからです。
どうやら難民対応の最前線にいる人たちは、シンポジウムに来るような余裕がなかったかもしれないとも思いましたが、これまでも長年にわたって移民を受け入れてその言語統合をどのようにしていくかを考えてきた人々の知見から学ぶことは大いにあると思いました。
欧州評議会言語政策部門主催 国際シンポジウム
「成人の移民の言語統合:研究から学ぶこと The Linguistic Integration of Adult Migrants: Lessons from Research」2016年3月30日〜4月1日 ストラスブール、フランス
基調講演と口頭発表例(真嶋が参加したもの)
基調講演1
Language testing in the context of migration: pro and con from a (psycho)linguistic perspective – Rosemarie Tracy
「移民の文脈における言語テスト:(心理)言語学的な観点から見た賛否」ローズマリー・トレーシー
基調講演2 Migrants connectés, integration sociale et apprentissage/certification en langues: prendre en compte la nouvelle donne numérique –Claude Springer
「移民の社会的統合と言語の学習と資格」クロード・スプリンガー
基調講演3 Language, migration, and families –Ofelia García
「言語・移民・そして家族」オフェリア・ガルシア
*口頭研究発表は、4会場で同時に行われたので、聞けないものも多かったのですが、以下の番号と示したものは、真嶋が参加したものです。手短かに内容を示しておきます。
研究発表:
27 Mediation and the social and linguistic integration of migrants: updating the CEFR descriptors –Brian North and Enrica Piccardo
CEFRの生みの親の一人であるブライアン・ノース氏の発表で、2015年に行われたCEFRの「Mediation 仲介」の部分について、現行ではほとんど記述がないので、新しいプロジェクトとして能力記述の妥当性・整合性を高める作業が行われた。(日本からも大阪大学チームが参加したが)分析が進んでおり、その成果を入れて、2017年には改訂版CEFRが出る予定だそうだ。そこには移民の社会・言語的統合を意識した「Mediation 仲介」の能力記述が含まれる予定だそうで、期待している。
74 “Crawlers, footers and runners”: language ideological reactions to hybrid language repertoires in a Dutch L2 classroom
オランダへの移民の第2言語の教室で行われた質的研究で、教師が学習者を「ハイハイする幼児、足で歩く人、そして走れる人」と捉える様子が報告された。非常に雄弁な発表者で、語り部として高い能力を持っていると感心した。(真嶋の感想)
76 Using workplace learning to support linguistic integration of adult migrants – lessons from a decade of work in Sweden
スウェーデンで働く移民の言語的統合を、職場での10年間にわたる調査・支援からわかることを報告された。
88 La place de la L1 dans les familles originaires de Turquie en Alsace
アルザス地方(フランス)のトルコ人家族における第1言語の位置についての報告。
36 Langues et identities dans la communautê kurde de France
フランスにおけるクルド人移民コミュニティーにおける言語とアイデンティティについての調査報告。
85 Immigrants and prison: good practices in Europe
イタリアの刑務所の中で、外国人(移民)の多いところ(9割の囚人が移民)の調査報告。
78 Aging in an L2 context: the wellbeing of Turkish migrants in the Netherlands
第二言語のコンテクスト(環境)での高齢化問題:オランダのトルコ人移民の高齢の女性へのインタビュー調査の結果報告。トルコ語で生活できる環境になっていて、オランダ社会とのつながる方法(人的ネットワーク)はあるものの、日常生活ではオランダ社会に溶け込んでいるわけではない。
以下は聞けなかったものです。
22 Language tests for access, integration and citizenship: an outline for policymakers from the ALTE perspective
14 All a question of the “right” capital? Subjectification through language tests for residence permit in Austria
55 Community networks and super-connectors: how is English learned in the classroom used in the wider super-diverse community?
62 Linguistic integration and residence policies in Italy: issues and perspectives
53 Teenage and adult migrants with low and very low education level: learners’ profile and proficiency assessment tools
92 The language skills of adult migrants in Europe – evidence from official data
49 What do employees have to read, write, speak and listen to at the workplace? A comparison of communicative requirements
52 Supporting migrants in low-paid, low-skilled employment in London to improve their English
38 Literacy and language teaching: tools, implementation and impact
48 Integration of migrant citizens, from language proficiency to the knowledge of society: the Italian case
31 Répertoires linguistiques de prisonniers étrangers en Italie et en Europe: premiers Résultats des projets