真嶋潤子が考えていること

 この雑誌で紹介されていますが、18歳以上の自閉症の成人を対象にしたグループ療法の一つに「フライブルク成人自閉症特化療法 (Freiburg Autism-Specific Therapy for Adults: 略称 FASTER)」というものがあるそうです。この団体が2008年に設立された背景には、それまで自閉症と言えば専ら子供の問題だと考えられていて、成人の問題にほとんど手がつけられていなかったという状況がありました。FASTERでは基本的に8人の自閉症者と2人の療法士から成るグループセッションを9ヶ月1単位で30回やるそうです。そこで自閉症者は自分の特性を知り、他の自閉症者の違った特性を知り、かつ共有できる部分を意識するとのことです。個人ごとに特別の問題がある場合は個別の療法も行ないます。
 ここでの療法ではやはりコミュニケーションの問題が中心的位置を占めています。しかしここでは定型発達者の世界に合わせることができるように自閉症者を訓練するといったことはありません。あくまでも定型発達者のコミュニケーションについて知識を持ってもらうことに限っていると言います。個別の事例を想定して訓練しても、実際の場面にぴたりと当てはまることなどほとんどなく、現実はもっと不定形かつ刻々と変化するものなので、パターン練習をしても自閉症者は対応できず意味を持ちません。なぜここで定型発達者はこういう反応をするのか、そこにはどういう意味が込められているのかを知って理解することが大事なのです。そのことによって定型発達のコミュニケーションと自分のコミュニケーションの違いを知ることができます。理解はできても自在に実践できないという問題はおそらく克服できません。それこそが障害なのです。コミュニケーションは音声言語だけに限られるものではなく、身振りや表情といった非言語的な信号が大きな役割を果たします。自閉症者には身振りや表情の乏しい人が多いのですが、無理に定型発達者に合わせようとするのではなく、何らかの代替手段を考えます。例えば親愛さを表現する手段として微笑むことが難しい人にはうなずくという手もあるよと教えたり、別れる時には手を上げて合図をするといった具合に。
自閉症者は意識的、無意識的に定型発達者の世界に合わせようとして、自分を隠し、何らかの仕方で埋め合わせようとします。その埋め合わせの努力に定型発達者には想像もできないようなエネルギーを割いているのです。そのために大きなストレスを感じ、場合によっては燃え尽きてしまいます。そのことが生活の質の低下を招くので、ここでの療法は生活の質の向上が中心的な課題だそうです。
 この団体は今はフライブルクが活動拠点ですが、既にベルリンなど幾つかの都市に支部を持っており、いずれはドイツ全体に広げたいそうです。


以上は雑誌記事の忠実な紹介ではなく、私の解釈を織り交ぜての文章であることをお断りしておきます。Vgl.  autismus-verstehen: Das Magazin von und mit Menschen im Autismu-Spektrum, 2020 H.2, S. 14-19.
 
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