真嶋 潤子(まじま・じゅんこ)
e-mail: jmajima@lang.osaka-u.ac.jp
HP: http://homepage.mac.com/jmajima1/bukosite/home.html
(1)自己紹介
日本語教育学の看板を掲げて「良質の日本語教師」の育成を目下の使命と心得てやっています。今年入学されたみなさんとのご縁も大切にしたいと思います。もちろん日本語教師だけが職業ではありませんから、それ以外の人には「日本語教育に理解のある一般市民」になってもらいたいです。
私は、高校生の時に日本語教師を志してから、以前は珍しい職業でしたから情報もほとんどなく、紆余曲折を経て今に至っていますが、日本語教育の分野を選んで後悔したことは、幸い一度もありません。日本語専攻では学部から大学院まで、日本出身者以外にも、世界各地から日本語教育に志を立てたり知的関心を持ったりした優秀な人材が集まっており、そういう人たちと日々接する事のできる本学に赴任するという幸運に恵まれたことを、素直に喜んでいます。
私の数少ない趣味の一つは、世界の料理の本を読むことです(読めない言語の場合は、見るだけですが)。心が休まるので、眠れぬ夜の睡眠導入剤にもなっています。もちろん読んだ後、作って食べるという「実践」も重視しています。世界の料理を見ていると、どの民族も、土地柄を生かした食材を利用して、バランス良く栄養を取りつつ、目も舌も楽しませる工夫をしていることがわかります。みなさんには、学生時代に様々な経験をされると思いますが、「甘い経験」だけでなく「苦い経験」も「偏食」せず、よく味わって「人生の栄養」にして丈夫で魅力ある人になってもらいたいです。
国内で日本語教育に携わる仕事には、社会のマイノリティー・社会的弱者の手助けをすることも多々あります。”noblesse oblige”という言葉がありますが、意識しているかどうかに関わらず、みなさんは色々な意味で「社会のエリート」になる人たちですから、「エリートでない人々」のことも考える責任を持ってもらいたいと思います。物事を複数の視点から見ることができるように、日本以外の国や地域から発信されたニュース報道やメディアにも、日頃から接することをお薦めします。
「甘い」だけでない様々な経験を「人生の栄養」にしてください。ご入学おめでとう。
(2)推薦図書
《1》朴裕河『和解のために −教科書、慰安婦、靖国、独島−』 (平凡社、2006、2310円)
著者の思索に勇気づけられます。日本語教育に携わる人は特に、日本語学習者の出身国の文化や歴史を尊重し、学び続ける努力が必要だろうと思います。
《2》 小熊英二『日本という国』(理論社、2006、1260円)
《1》を読む前に、近代日本の始まりから今にいたる基礎知識に自信のない人は、これがお勧め。すぐ読めてよくわかります。もちろん「全て」がわかるわけではありません。
《3》冷泉彰彦『「関係の空気」「場の空気」』(講談社現代新書、2006、770円+税)
アメリカで日本語教育に携わってきた著者が、日本語のコミュニケーションの特徴を標題の切り口で解き明かします。思い当たるところがあって、日本語を見直すきっかけになるかもしれません。少し古いですが、まだ内容は古びてはいません。