真嶋潤子の最近の活動

(2015年2月24日)   ←戻る
台湾へ初めて行ってきました。  
 2015年1月23日(金)に出発して26日(月)に帰国するという3泊4日の短期間でしたが、初めて台湾を訪れることができて大変良かったです。
 
 中2日、24、25日は両日とも「台湾日語教育学会J-GAP TAIWAN」の研究会でした。どちらも台中市で行われたので、今回はずっと台中にのみ滞在することになりました。初めての台湾は、観光はお預けで台湾の主に大学で日本語教育に携わっておられる先生方との交流が中心でした。
24日は東海大学で、25日は場所を変えて静宜大学という二つの私立大学を会場にして、40名ぐらいの方が参加されたでしょうか。
 
 私は初日に2つ、2日目に1つの発表(講演)をさせてもらったのですが、行き届かない点が多々あったかと思いますが、みなさん暖かく受け止めてくださったので感謝しています。
私の講演タイトルは、以下の通り。(会のプログラムは、この稿末につけておきます。)
 
1月24日
 その1:「CEFRを応用した大阪大学のカリキュラム改革」
 その2:「到達度評価について」
1月25日
 その3:「日本の外国人児童の日本語学習支援の施策と課題」
 
 
 出発の1週間ほど前にお腹をこわし、どうやらノロウィルスだったのではないかと思われますが、インフルエンザかもしれないと医者通いをしました。万一インフルエンザであれば診断されてから5日間は外出禁止だとのことで、台湾出張は無理になるという可能性があったため、主催者のみなさんにショックと心配、不安を与えてしまいました。幸いインフルエンザではなく、「普通の生活」の許可が出たので、少しお腹の調子に不安を抱えながらも、無事予定通り渡航することができました。
薬が効いたのもあると思いますが、台湾に到着するころには、ほぼ普通に戻っていましたが、すこし自重気味に食事をしました。
 
 台湾は、かつて日本が植民地支配をして、人々に大きな損害や苦痛を与えたところです。今回私は、24日初日の最初の講演で、そのことに触れて、申し訳ない気持ちであることと、当時とは異なり現在ではだれからの強制もなく、日本語学習者が多いことを大変ありがたいことだと思っていることを申し上げました。
台湾の人々にとっては、日本が敗戦後に去った後も、大変苦難の多い道のりを歩んでこられたと思います。複雑な人口構成でもあり、複雑な利害のからむ歴史です。親切で優しい国民性で訪問者を受け入れてくださいましたが、その心中には複雑な思いがたたみこまれていることにいつも配慮するよう心がけていたつもりです。
 
 今回の私の二日目の話が、外国にルーツを持つ児童生徒(CLD児)のことだったので、台湾はどういう状況なのか、興味がありました。台湾も、韓国もそのようですが、日本以上のスピードで少子高齢化が進んでいて、結婚相手の見つけられない現地の男性が、主に東南アジアからの女性と国際結婚することが増えているそうです。
台湾は、それでも日本のような「表面上は単一言語:日本語のみ」で動いている社会とは異なり、元々少数民族が多くて、お年寄りの中には、日本語が共通言語(リンガ・フランカ)として機能しているような民族の方々もあるそうです。昔の日本語教育の「せい」なのか「おかげ」なのか、評価は難しいことです。
 
 でも、日本の外国人児童生徒に対して「同化政策」ではなく、彼らの母語・母文化の重要性も認め、できるだけバイリンガルとして育つよう「何もなくさない日本語教育」が理想だと思っている私のような人も、台湾にもいるでしょうが、あまりその件は社会的には論点にはなっておらず、「同化政策」が普通だろうとのことでした。少数民族を多く抱える社会で、特に社会の発展を急いでいるところでは、社会的マイノリティーの子どもたちへのバイリンガル教育というのは、一見まどろっこしく、社会発展の速度を遅らせたり、妨げたりすると考えられてしまうのでしょうか。大きな社会の流れでは中国語学習への圧力が強いところで、マイノリティー言語の尊重・維持の支援、継承語教育の重要性などは、個人の問題に帰されてしまうのかもしれません。
 
ただ一方で小学校では少数民族の母語が必修とされているということで、その辺りの話をもっと突っ込んで聞いておくべきだったと思います。
 
 今回私が招かれた研究会では、CEFRを採用して外国語教育(日本語教育)にテコ入れしようという目的があるようでした。共通参照枠を採用することで、学校種を超え、学校を超え、さらには国や地域を超えて話ができることの可能性とその魅力は大きいと思います。
 
 二日目の話は台北市で小学校1年生からの英語教育施策をリードして来られたキーパーソン、陳錦芬先生のお話が中心でした。台湾には小学校からの(第二)外国語教育としての日本語教育についても関心が高まっているという背景があって、陳先生のカリキュラム開発等の実践の話、特に教育政策を実現していくノウハウに関する経験に基づいたお話が高い関心と尊敬の念を持って聴衆に受け入れられていました。
 日本と違って、台湾でも韓国でも、小学校からの英語教育を充実させ、また第2外国語を小学校または中学校から選べるようにするという考えが浸透してきていて、刺激的でした。日本の子どもたちだけが、小学校での英語教育以外の外国語に触れる機会がないという事態は、それで良いのか、今後もっと議論されるべきだろうと思います。
 
 台湾人の子ども達に、第二外国語を教えるというテーマから見ると、私からの日本のマイノリティー児童生徒への言語教育施策の話は、やはり異なる話題だったので、議論を拡散させてしまったと思います。それでも、聴衆の中には問題を共有する方が何人もおられて、休憩時間にまで食い込んでお話ができたのは良かったと思っています。
 
今回の会は、かなりの準備と予算や人的資源をつぎ込んで催されたと思います。これが「台湾日語教育学会 J-GAP TAIWAN」の「月例会」だというので驚きました。とても活発です。元気をもらって帰国しました。
 
 今回は、初めての台湾訪問で、台湾社会に違和感なく招き入れていただき、居心地の良さを感じました。現地の日本語・日本文化の専門家や、長く在住している日本人のみなさんの温かく飾らない「おもてなし」のお蔭です。次回は観光も含めて、台湾の文化や歴史の奥行きを見てみたいです。
 
 
*********以下、研究会のプログラム
 
台湾日語教育学会 J-GAP Taiwan 第29回月例会
 
テーマ(1): 外国語学部のカリキュラム改革と課題
日時(1) 2014年1月24日(土) 10:00-17:00
場所(1)東海大学
講師: 真嶋潤子
 
24日の進行 (工藤節子司会)
10:00-10:15 開会の挨拶(東海大学 黄淑燕主任)
10:15-11:30 真嶋潤子講演 「CEFRを応用した大阪大学のカリキュラム改革」
 
11:30-12:00 質疑応答
12:00-13:30 昼食
13:30-15:00 台湾におけるカリキュラム改革の実践と課題についての意見交換
 (話題提供者:黄淑燕、陳姿菁)
15:30-16:30 真嶋潤子 「到達度評価について」
16:30-17:00 質疑応答
17:00-17:15 閉会の挨拶(東呉大学 陳淑娟)
 
テーマ(2):台灣如何利用CEFR改善外語教學問題
日時 (2)2014年1月25日(日) 10:00-17:00
場所 (2):静宜大学
講員:陳錦芬教授 (靜宜大學外語學院院長)
 
真嶋潤子
 
25日の進行 (陳淑娟主持)
10:00-10:15 開幕致詞(静宜大学 李偉煌主任)
10:15-11:30 陳錦芬院長講演 「臺北市小學英語教學的實施與師資培育問題(中文)」
11:30-12:00 提問與意見交流(中文)
12:00-13:30 午餐
13:30-14:30 真嶋潤子講演 
「日本の外国人児童の日本語学習支援の施策と課題(日文)」
14:30-15:00 意見交換
15:00-15:20 休憩
15:20-17:00 座談會(陳錦芬院長,真嶋潤子,J-GAP TAIWAN,與會教師,陳淑娟)
「如何利用 CEFR改善中等教育日語課程的問題,如何解決師資培訓、評量問題」
17:00-17:05 閉会の挨拶(東呉大学 陳淑娟)


(2014年11月26日)
 大阪市平野区に、外国から来た人のための日本語学習支援を行なっている「にほんごサポートひまわり会」というボランティア・グループがあります。
2014年7月6日(日)にその会のお招きで、日本で子育てをしている外国人のお父さんお母さんのための「言葉の教育」についての研修会を行いました。
 
 研修会は、最初私(真嶋)がお話(講演)と質疑応答をして、その後、参加者の母語(中国語、タイ語、ベトナム語、スペイン語)によって4つのグループに分かれ、母語のわかるモデレーターと一緒に、現状や悩みを相談しあう熱い会になりました。
 
 全体の報告書ができましたので、お目にかけることができます。日本語の報告書と、ベトナム語、中国語のダイジェスト版です。(スペイン語も近日中に追加できます。)
 
 日本で子育てする外国からのお母さんたちには、ぜひ自分が自信を持って使える母語で子育てをし、子どもに母語・母文化を伝えていっていただきたいと思います。日本社会は日本語圧力の強い社会なので、母語を使うことを遠慮したり、恥ずかしがったり、はたまた日本人の家族から止められたりすることもあるかもしれません。でも、長い目で子どもの成長を考え、日本語・日本文化も、母語・母文化も両方身につけたバイリンガルとして育ってくれれば、将来日本社会でも活躍してもらえるかもしれません。
周りの多数派である日本語母語話者のみなさんにも、バイリンガルの子どもたちが人一倍努力しているのを、ぜひ認め、褒めてやってもらいたいと思います。
 子どもは日本に生まれ育つことを、自分で選択したわけではありません。
でも、どこにいても持てる力を十分に伸ばし、健全な発育ができるよう、バイリンガル教育を前提としてもらえたらと思っています。
 
 この資料がどなたかのお役に立てば、作成してくださった「ひまわり会」の齋藤さんはじめ関係者のみなさんの労力にも報いることができると思います。
ありがとうございました。