2009年
3月22−29日
ドイツ・テュービンゲン大学 出張(RIWL特別研究派遣)
テュービンゲン大学日本文化センター 小山洋子先生を中心とした日本語教育に関わるスタッフとの会談。
7月27日(月)
大阪府国際教育研修会B 講義
8月8日(土)
ひょうご・ヒューマンフェスティバル2009 inかこがわ
「子ども多文化共生教育フォーラム」
テーマ:「豊かに共生する心」をはぐくむ子ども多文化共生教育
講演「外国人児童生とへの日本語教育と母語教育」
水野マリ子先生(神戸大学)、藤井哲人先生(伊丹市立池尻小学校教諭)と。8月9日(日)
MHB研究会大会 招待発表「大阪府と兵庫県の外国人児童生とへの日本語教育」(大阪府教育センター指導主事 安野勝美氏、兵庫県教育委員会人権教育課長 沖汐守彦氏と共同発表) 於:立命館大学衣笠キャンパス
*報告は『MHB研究』第6号に掲載。8月13日−9月2日
東欧出張
旧東独からチェコ・プラハを経由して、ハンガリー・ブダペストへ。
29日
ハンガリーで
国際交流基金ブダペスト日本文化センター 第12回日本語教育研修会
招待講演「言語教育プログラムにおけるCEFR —CEFRのコース、評価への応用—」 (日本語教育に関係する参加者20名程度)2009年11月3、4日
マレーシア・クアラルンプールにて
大阪大学フォーラムが開催される。マレーシア教育省と共催。私は2日目の「大パネル」と呼んでいた最後のパネルディスカッションのモデレーターという役目を果たした。
*そのまとめ/報告2009年12月16日
新潟大学特色ある大学教育推進プログラム第3回FD
於:新潟大学五十嵐キャンパス
講演「CEFRを利用した外国語教育の可能性—大阪大学外国語学部の場合—」外国語教育に関係のある先生方約30名の参加をえた。ここは、全学部生の外国語教育を充実させるため、複数のメニューを用意し、学生の興味関心によって選択できるよう工夫されている。現代語から、古典語としてラテン語・ギリシャ語のみならずヒエログリフまで学べる。また、手話が外国語として選択できるのは、先見の明があって素晴らしいと思う。2007年に訪問した米国・ウィスコンシン大学マディソン校の外国語センターでは、「アメリカ手話」が専攻できるのに感心したことを思い出す。
2010年1月23日(土)
於:大学コンソーシアム・キャンパスプラザ京都
言語政策学会関西地区研究例会の運営を担当。(運営委員会として)
(発表: 中島智子先生、棚橋尚子先生。参加者約30名。会場がほぼ満席になる。)
プログラム:
14:00-15:30 中島智子(プール学院大学 教授)「在日コリアンをめぐる言語状況-歴史から未来を学ぶ-」
15:30-15:45 休憩
15:45-17:00 棚橋尚子(奈良教育大学 教授)「国語科の新旧学習指導要領について」2010 年3 月9 日(火)
金沢大学外国語教育研究センター 研究開発シンポジウム「外国語教育における到達目標と成績評価」
於:金沢大学自然科学本館レクチャーホール(金沢市角間町)
(参加者約40名)*講演録は、金沢大学HPにアップされる予定。
2010年3月13日−21日(22日帰国)
海外出張
13日 Stuttgart からRottenburg へ14日 フランスへ移動
Strasbourg へ
3月15日 キーワード:教員養成、言語意識、評価
ストラスブール大学教員養成大学院 IUFM で、マイノリティへの言語教育に関わっておられる先生方にお会いする。
クリスティーン・エロ教授 Christine Hélot
アンドレア・ヤング講師 Dr. Andrea Young
エロ先生は、小中学校の教員養成に携わる中で、教員が他の言語・文化を尊重する意識をきちんと持つような取り組みを行っている。3年プロジェクトで、ある小学校の教室に移民の保護者を招いて言語や文化を教えてもらうことで、子どもたちだけでなく、まわりの大人も「言語意識」が変わっていく様子をビデオ化し、それを教員養成のクラスで議論の題材として使っているという。「言語意識」の育成・伸長については了解したが、実際に多言語主義を実現すべく、小学校から外国語の授業を行うのであれば、その効果を測るためにも、子どもの言語能力の評価や、効率的指導法といったことはどうなっているのかを尋ねた。
残念ながら、評価や能力測定というのは、非常に「危ない」「難しい」ことであると言われた。それを理由に、(補助金削減やカリキュラムの変更など)攻撃材料として使われることがあるという。しかし、逆に成果を数字で示せるのであれば、プラスに働くだろうとも言われた。その線で、トルコ語の教育で教育成果や評価の研究をしている研究者を紹介してもらった。そもそもストラスブール大学のエロ教授らを尋ねるきっかけになったのは、本の一章を二人で書いているものを(MHB研究会の読書会で)読んで興味を持ったからである。
Ofelia García et al. 編 2006 “Imagining Multilingual Schools: Languages in Education and Glocalization” Multilingual Matters の本に書かれている、フランスのアルザス地方でマイノリティ言語の教育における「言語意識Language Awareness」に関する業績であり、背景となるアルザス地方の歴史も少しかじったところ、大変興味深いものであった。(*読書会の発表レジュメを添付。)
アルザス地方というのは、第二次大戦後はフランスであるが、ドイツとフランスの間で5回も帰属が変わり、独自のアルザス語と文化を築いてきた人びとである。有名なドーデの「最後の授業」は、私も子どもの頃に読んで知っているが、あれはドイツが力を持ってフランス語を虐げた時であるが、その前には、逆の状況つまりドイツ語の授業が「今日で最後です」といわねばならなかったという時期もあったのである。
言語を相対化すること、どの言語も同じように大切であり、言語に優劣はなく、さらにどの言語文化も学ぶことは非常に楽しいことであるということ、そういったことを子どもの頃から体験し、身につけることが大切であるというのが、エロ先生たちの言おうとすることであると理解した。それを実践するには、教師教育が大切だということは、私も全く同感であり、個人的には励まされたが、理想への道のりはまだ遠いという感は否めない。2008年9月と2009年1月に訪問したドイツ・フライブルク教育大学での見聞からも思うことだが、ヨーロッパは移民の歴史が長く、多言語話者も多いので、さぞ多言語教育がうまくいっているかと思いきや、日本よりも議論の歴史はあるが、なかなかすっきりとした解決には至っていないことがわかる。同じような議論が、何度も繰り返しなされているようである。政治経済や社会の変化、極端には戦争や紛争によって、人々の移動があちこちで起こり、いわば「もぐらたたき」のように(マイノリティの言語教育問題という)同じ問題が形や場所を変えて議論されているように見える。
3月15日夕方
宮崎玲子さん(国際交流基金ブダペスト日本文化センター 日本語教育指導助手)と会食。 作成中の日本語教科書について進捗状況などを聞く。CEFRの研修と教科書への参照方法についても意見交換。
2010年3月16日
宮崎さんと一緒にストラスブールからパリへ向かう。
国際交流基金パリ日本文化会館の近藤裕美子さん(日本語教育アドバイザー)、村中雅子さん(日本語教育指導助手)に会う。4人で、継承語日本語教育の実績のあるパリ郊外( サンジェルマン・ アン・レイ)にあるインターナショナルスクール(エリート校)を訪問する。
日本語セクション代表のアレ先生にお話を伺う。
日本語の授業を2つ見学する。(新居:あらい:先生)
パリのエリートインターナショナルスクール校の継承語教育の日本語クラスを見学できて非常に興味深かった。十二分(というのは、学年相当レベルを考えて)に高度なバランス・バイリンガル/バイリテラルが育っていて、驚いた。絶え間ない本人の努力と親の支援、教員の指導があるようだ。見学したのは、以下の通り。
<中学2年生クラス> (11名)『国語』光村図書 「五重の塔はなぜ倒れないか」
生徒がよくしゃべる(発言する)のに驚く。朗読は、「非常に」がつく流暢さ。「相殺される」を「そうさつされる」と読んで、クラスメートに指摘される。内容をわかってすらすら読んでいるのがわかるので、初見でないのは確かだ。かなり家でも練習しているにちがいない。
文章の内容に関して、先生の問いかけ方も上手で、それに答えようと、みんな頭を使っているのがわかる。問いかけに答えようと挙手する生徒を(吟味して)当てる場合と、「ノートに書いてください」と書かせて、それをチェックしていく場合がある。挙手させる場合も、「まだ考えている人がいるから、ちょっと待って」というような場合もある。「これを表すことばは教科書のどこにあるか、指で示してみせて」と言って、見て回る場合もあって、なかなか上手な授業展開技術を駆使しておられる。<中学1年生クラス> (10名。この日はクラスの残り半分は、別の活動があり来ていなかった。)
教科書は光村『国語』「にじの見える橋」
ポイントをノートに書かせる。(あとでノートがうまいまとめになっているように、計画されている。)
先生の質問を板書し、答を言わせて、やりとりをして盛り上げてから、まとめた答を板書し、ノートに書かせる時間を取っている。先生と生徒のやりとりが絶妙。早く発言したい子、じっくり考えたい子、自信のない子、といった生徒の個性を瞬時に把握しながら、どの子の活躍の場もあるように、配慮されているのがわかる。
題材も、この生徒たちの成長段階に丁度良いように見えた。生徒が内容に共感しているようだった。「虹の真の美しさを主人公が理解するためには、雨の後の太陽の光が必要であるように、人間も悩みや悲しみを感じておくと、より深く嬉しさを知ることができるということ」そういうテーマを「主人公は、これこれ...ということが理解できるようになったのではないでしょうか。○○君、この意見、どうですか?賛成?OK?」と指名したところ、「自分たちも苦労したら(初めて)幸せであることや物事の良さがわかる」といった答が出る。同調しながら、そういう経験をみんなが想い描いているようだった。各自が自分に引き付けて考えたことを発表したそうな雰囲気が出ていた。
それはそこまでにして、「隠喩法」の話に持っていった。どの生徒も、各自の仕方で積極的に取り組んでいるのがわかった。自分のこととして勉強が進められている。みんながインターナショナルバカロレア資格(OBI)を取るという目標のために、「点取り虫」ではあるらしいが、切磋琢磨している。否定的になったり、他人を蹴落としたり...ということは全くない。むしろみんなで仲良く勉強しよう、(そして合格しよう)という建設的雰囲気である。
<授業後の新居先生との話し合い>
・「日本語のクラス以外の授業で(ほかのフランス人教師の授業)は、すごく厳しく私語なども全く許されない時間なので、日本語のクラスは居心地の良い、少しゆっくりできる雰囲気を許している。」「でもここの子どもたちは、ここ一番のところでは、しっかりやってくれる、という安心感がある。」教員と生徒との強い信頼関係ができているのがわかった。それが教員のプロ意識ややり甲斐を構成しているようである。先生も子どもたちも、授業がとても楽しそうだった。
・家庭は、日仏家庭が7−8割だろう。週に(文科省学習指導要領に則った)「国語」が4時間と「社会」が2時間ある。宿題は少なくとも、毎日1時間はやっているだろう。
・この教室に入ったら日本語だけとしている。教室外で、生徒同士が日本語で話しているかは不明。
・落第はある。2回までで、それ以上落第すると「他の学校への転校」となる。・流暢に日本語を話せるが、「語彙のブラックホール」がある。また、フランス語の脳で日本語を話しているのだなと思うことがある。例えば、「先生に宿題を提出する」というところを「先生に宿題を返す」(フランス語の影響)と言うのを耳にすることがよくある。
・ここ以外の補習校では、能力格差が大きい。1時間15分の授業を週1回が原則。
付記:
「サン・ジェルマン・アン・レイ」といえば、エリート校で裕福な家庭の恵まれた子どもたちの学校だという認識が一般的のようだ。(パリ在住8年の友人も、CoEのPanthier さんからも、異口同音に出た。)
社会における少数言語を母語とする外国人(国際家庭)の子どもでも、学校と家庭の言語環境を整え、本人も家族(保護者)も教員も努力すれば、立派なバイリテラル/バイカルチャーに育つことを明示している例だと言えるだろう。
「これはエリート校だけの話」「普通の公立学校には関係ない」と断絶せず、こういったエリート校の成功事例の鍵から、公立学校にも適用できることがないか、考えていく必要があるだろう。17日
国際交流基金パリ日本文化会館で、ミーティング。
継承語科研について: 村井さん、佐藤さん(INALCOの期限付き常勤講師)と。近藤さん、宮崎さんはオブザーバー。
基金の今後の計画に関して: 近藤さんから説明と相談を受ける。3月18日
欧州評議会言語政策部門 Johanna Panthier さんと会談。
CEFRの最近の動向について多くの情報を得た。